営業の世界で勝ち抜くためには、時代と市場の動向を読み解くことが不可欠です。
どのような情報を、どうやって集めるのか、事例をみながら確認してみましょう。
イントロダクション
登場人物及び企業

スゴイロボット 株式会社
ロボットと制御ソフトウェアを開発するベンチャー企業。
飲食業界に配膳ロボットを販売する計画を立てている。

スゴイロボット(株)
営業部 営業一課 栄丸太郎
ロボットのベンチャーであるスゴイロボット社の営業担当。経験豊富な営業マン。

スゴイロボット(株)
技術部 技術一課 上野課長
栄丸さんの上司。
栄丸さんを信頼して、仕事の進め方を任せている。
ある日、「スゴイロボット株式会社」の社内打ち合わせで、技術部から、飲食業界における新製品の配膳ロボットの販売を拡大したい、と営業部に相談がありました。

営業担当 栄丸さんが、上司の上野さんからの指示を受けて情報収集を開始しました。
飲食業界を取り巻く状況について把握して、販売計画を作成していくためです。
どのような情報を集めれば良いのか、を整理する
インターネットで調べたところ、法規制や競合企業の広告など、雑多な情報がまとまりなく出てきました。
これをそのまま社内で共有しても、皆が混乱するだけです。
栄丸さんはまず、集めるべき情報の種類を整理することにしました。
大きな流れを把握する
栄丸さんは、まずは国全体の動向を把握してみることにしました。
そもそも、飲食業界全体が衰退産業で、規制だらけであるならば、そこに新製品を投入すること自体が意味をなさなくなるからです。
栄丸さんは、政治・経済・社会・技術の四つの項目に分けて調べていくことにしました。
政治
「政治」に関係するものとしては、国や自治体の政策や法律などで影響のありそうなものです。

- どの会社も効果のわからないものに大きな予算はつけないかもしれないな。ロボット導入について、政府から飲食店に対して出される補助金はないのかなぁ。
- ロボットを動かして、人とぶつかる可能性もゼロじゃない。どういう規制があるんだろう。
経済
「経済」に関係するものは、経済成長や為替などに関係する情報です。

- ロボットの部品は輸入のものが多い。設定しているいまの価格で持続できるんだろうか。
- インバウンド需要による経済の押し上げが期待できそうだ。
社会
「社会」に関するものは、少子高齢化や労働人口など社会全体の情報です。

- 最近のニュースでは、従業員の確保が難しいみたいだな。ロボットのニーズに繋がりそうだ。
- 少子高齢化が進むということは、高齢者にも優しい仕様が望まれるかもしれないな。
技術
「技術」に関するものは、技術革新やインフラ(Wi-Fiなどの電波や普及しているスマホなど)などの情報です。

- 子供との接触リスクをお客さまは心配しそうだ。センサーの技術革新がその不安を軽減できる点を説明した方がよさそうだ。
- どの店舗でもWi-Fiがかなり普及していそうだ。ソフトウェアのアップデートなどがやりやすい環境になっているかもしれないな。
お客さま業界を取り巻く環境を把握する
大きな流れでは、配膳ロボットを提案することに追い風であることが確認できました。
今度は飲食業界がどんなことを望んでいるのか、競合にどんなプレイヤーがいるのか、自社はそれにどうやって応えていくのか、を把握することにしました。
顧客・競合企業・自社の関係で情報を整理することにしました。
顧客
お客さまとなる業界の成長性や、どのようなニーズがあるか、などが考えられます。

- 飲食業界の成長性はどうなっているんだろう。
- 飲食業界といっても様々な業種がある。いま投資を考えている業種はどこなんだろう。
- 業態によってもニーズが異なりそうだ。
競合
ライバルに関する情報としては、市場シェアや商品の特徴などが考えられます。

- ムジン技研でも、同じような配膳ロボットを作っているな…。我々の会社と比べて、どれくらいたくさん売っているんだろうか。たくさん売っているほど、価格も下げられそうだし。
- また、どのようなポイントが彼らの強みになっているんだろうか。
- どの業種にフォーカスしているんだろうか。
自社
自社に関する情報は、お客さまやライバルの情報を踏まえて、強み・弱みは何か、と考えるとわかりやすいです。

- お客さまが配膳ロボットを導入する動機がコストだった場合、ムジン技研のロボットにわが社は勝てるんだろうか。
- わが社が考えている強みは、独りよがりになっていないだろうか。
- 製品そのもので互角だった場合に、サポートなどで差はつけられないだろうか。
情報をかき集める!
欲しい情報がある程度まとまってきました。
栄丸さんは、パズルのピースを埋めるように、政治・経済・社会・技術、顧客・競合企業の情報を集めていく事にしました。
インターネットや書籍・新聞で調べる

まず栄丸さんは、インターネットで情報を集めることにしました。
政治・経済・社会・技術に関する内容は、各省庁での公開情報や、過去のニュースから情報を得ることができました。
特に統計データについては総務省のホームページで公開されており、客観的な数字で説明する事ができそうです。
各省庁から出版されている〇〇白書なども、検索する過程でヒットしました。
技術に関する内容については、業界紙の情報も参考にできました。
でも、顧客業界・競合企業に関する情報は、各社のニュースリリースなど、表面的なものしか入手できませんでした。
調査レポートを取り寄せる・作成を依頼する

栄丸さんは、顧客業界・競合企業の詳細な情報を集めたいと考えました。
インターネットで検索したところ、コンサルティング会社が市場調査レポートを販売していることがわかりました。
ちょうど、飲食業界における先端技術導入にフォーカスしたレポートがあったため、上野さんの了解を得て、購入しました。
確認したところ、インターネットでは公開されていない、業界ならではの課題などの貴重な情報が得られました。
コンサルティング会社に、より細かな条件を指定して調査依頼を出すこともできるようでしたが、コストと時間がかかりそうということがわかったため、今回は断念することにしました。
この手法でも、競合企業に関する情報は、まだまだ十分ではありません。
やはり、競合他社に手の内が明かされるような情報は、厳格に管理されているようです。
関係する展示会を見学する

ちょうどそのころ、「飲食業界フェア」という展示会が開催されていることを知りました。スゴイロボットも出展を検討していましたが、新技術を展示する準備が整わず断念していたものです。
この展示会は、各種のメーカが飲食業界向けに最新技術を展示し、新しい商談につなげることを目的にしています。お客さまに相当する企業も出展しているようです。
栄丸さんは早速この展示会にでかけていきました。
競合企業のブースを見学し、質問してみたところ、ロボットの特徴や、狙っている業種、価格レンジなどを把握することができました。
相手は、栄丸さんのことを競合企業とは気づかなかったようです。
お客さまや取引先からヒアリングする

この展示会では、最終ユーザである飲食業界の企業や、そこに商品を卸している商社など、様々な企業とコンタクトすることができました。
ここでの会話で、栄丸さんは、インターネットで調べた情報のいくつかが、実態を表したものではなかったことも確認できました。
商社については、将来的にスゴイロボットの商品を取り扱うことも検討してくれそうです。
名刺を交換して、今後も意見交換をさせて頂くことにしました。
コミュニケーションによる情報収集で、足りなかった情報収集のパズルのピースが、かなりそろってきました。
解説とアドバイス
営業が集める情報は、商品の販売計画に大きく影響します。
まず、業界全体を観察し、追い風となる状況を見極めることが大切です。
集める情報の種類については、下記のように分けると足りていない情報を把握しやすくなります。
- 政治・経済・社会・技術…マーケティングでは、これをPolitics、Economy、Society、Technologyの頭文字を取って、PEST分析と呼びます
- 顧客・競合企業・自社…マーケティングではClient、Competitor、Companyの頭文字をとって3C分析と呼びます
ほかにも、業界内での競争・業界への新規参入者・代替品の存在・買い手(顧客)の交渉力・売り手(サプライヤー)の交渉力、に分けた5フォースモデルなどの分析手法もあります。
情報の集め方については、インターネットや業界レポートの情報で効果的に情報収集を進めつつも、お客様や業界関係者から直接情報を得ることで、さらに価値のある情報を手に入れることができます。
営業職は、広い人的ネットワークを持つことが強みとなる理由がわかると思います。
次の記事では、ターゲットとなるお客さまを選定し、さらにお客さま企業自体の情報収集を進める流れを詳述します。
参考文献
この記事で記載されている内容はマーケティングの分野の内容になります。
良書がたくさん出版されていますが、読みやすい書籍をご紹介します。
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