自社の製品を販売する上で、対象となる業界の魅力度に関する情報が収集できた後、
今度は具体的にどのお客さまへのアタックを優先的に進めるか、を検討しなければなりません。
イントロダクション
登場人物及び企業

スゴイロボット 株式会社
ロボットと制御ソフトウェアを開発するベンチャー企業。
飲食業界に配膳ロボットを販売する計画を立てている。

スゴイロボット(株)
営業部 営業一課 栄丸太郎
ロボットのベンチャーであるスゴイロボット社の営業担当。経験豊富な営業マン。
「スゴイロボット株式会社」では、新製品の配膳ロボットの販売拡大を計画しています。
営業担当栄丸さんが情報収集を行い、飲食業界を取り巻く状況について把握できるようになりました。

今回は、その得られた情報を使って、どのお客さまにアプローチするか、どのような情報を集めれば勝てる提案書を作れるのか、を検討します。
提案できそうな業界を分解する
栄丸さんは、情報を集めた結果、飲食業界自体には政府の補助金やインバウンドの影響、配膳ロボットを導入する共通的な動機がありそうなことは確認できました。
でも、一口に飲食業界といっても様々な業態があります。すべての企業にアタックするわけにもいきません。
栄丸さんは、何らかの要素で「飲食業界」を分解してみようと考えました。

- 配膳する対象が広くなければ、ニーズはなさそうだ。第一、ロボットが通る場所もなさそうだし。
- 広かったとしても、洋食屋など、配膳することそのものが重要なサービスの一環であるようなところは、導入する理由にはならないだろうな。
- セルフサービスが根付いている業種も、難しいだろうな。
考えた結果、飲食店業界を次の二つの軸で分けてみることにしました。
- 配膳する対象の場所が広いかどうか
- 店員の配膳負荷が大きいか、小さいか
これらを踏まえて、次のような図を作ってみました。

このように考えると、まずは、店員の配膳負荷が大きく、店舗もある程度の広さがある、ファミリーレストランの業界に絞って対応した方がよさそうです。
市場が魅力的かを確認する
導入する動機がありそうだ、ということで選んでみたファミリーレストランですが、本当に魅力的な市場なのかどうかも確認する必要があります。
店舗数が多いほど、導入されるロボットの数も多くなるため、候補になりそうないくつかの業態について、店舗数を調べてみました
ファミリーレストラン | 約6500店舗 |
焼肉屋 | 約2600店舗 |
病院(療養病床を有する) | 約3500施設 |
参考:
【2023年版】飲食店チェーンの店舗数ランキング|日本ソフト販売株式会社 (nipponsoft.co.jp)
02sisetu03.pdf (mhlw.go.jp)
比べてみても、ファミリーレストラン業界を狙う方向で間違いなさそうです。
ここに、1店舗あたりに導入されるであろう配膳ロボットの金額をかけていくと、おおよそのビジネス規模も計算できそうです。
優先度の高いお客さま企業を見つけ出す
「ファミリーレストラン業界」というところまで絞れたところで、
今度は、具体的に優先度の高い企業を選ぶ作業に入ります。
栄丸さんは、ファミリーレストラン業界のランキングを調べてみることにしました。
調べたところ、売上高のランキングで下記のようになっていました。
1位 | 美食レストラン(株) | 4000億円 |
2位 | イタリアンHD(株) | 1500億円 |
3位 | エンジョイHD(株) | 700億円 |
4位 | 宮中レストラン(株) | 600億円 |
設備投資にかける予算が、売上に比例していることを考えると、まずは業界第一位である美食レストランに提案してみるのがよさそうです。
もし、導入頂けるようであれば、業界における宣伝効果もありそうです。
ニュースリリースなども検討できないだろうか…、栄丸さんの想像は膨らみます。
お客さま企業にヒットするピンポイントの情報を集める
お客さまが特定され、栄丸さんもますますやる気が出てきました。
なんとかお客さまにヒットする提案書を作って、大きなビジネスにしたいところです。
提案書は、直接説明する相手の出席者だけではなく、お客さま社内関係者に広く共有される可能性があります。ここで、可能な限り、お客さまの課題を突いていることが重要です。
情報の種類
栄丸さんは、まず美食レストランに関するどのような情報が必要になるかを整理しました。
それがこの5つの要素です。
- 人
- 物
- カネ
- 情報
- 時間
人
決定するにあたり、どのような人・組織が関わるか、という観点です。

- この提案を最終的に決める人(決裁者)は誰なんだろうか。
- 進める過程で、技術部門など、発言力の強いチームはいるんだろうか。
- それぞれの人は、どういうポイントが導入メリットと感じるんだろうか
物
決定するにあたり、お客さまが持っているどんな資産(モノや建物)が使えそうか、という観点です。

- ロボットを走らせる上で、店舗そのものの構造には問題ないだろうか。
- 充電のための電源設備など、いまある設備がそのまま使えるだろうか。
カネ
お客さまがどうやって、いくらくらいのお金を準備されるか、という観点です。

- お客さまには、どれくらいの予算があるんだろうか。
- また、その予算はどのような名目(システムを買うのか、レンタルするのか)を考えているんだろうか。
情報
お客さまが持っている様々な情報をうまくつかえないか、という観点です。

- 連携することで、お客さまにとってのメリットが大きくなるような情報はないだろうか。
- 例えば、レストランの混み具合のデータをお客さまから提供してもらえれば、充電を効率的に進めることはできないだろうか。
時間
どの会社も、「来年度はこれくらいのお金を使いそうだ」という情報をまとめてから計画を作ります。翌年度はその計画の範囲内でしかお金を出してくれません。
いつまでに見積もりを出すべきなのか、それにはどういうスケジュールで動く必要があるのかを考えます。

- お客さまが、社内で投資の決断をするときのスケジュールはどのようなものだろうか。
情報収集の方法
実際にお客さまと接触する前の段階では、情報収集にも限界があります。
飲食業界を取り巻く一般論という観点では、PEST分析・3C分析で集めた情報を活用できそうです。
お客さま固有の情報については、栄丸さんは下記のものを参考にしてみました。
- 展示会などでのヒアリング情報
- 美食レストランのホームページ「IR情報」に公表されている、中期経営計画などの資料
いったんは、これらの情報から美食レストランにとっての業務課題・経営課題を「仮説」として提案書を作成することにしました。
不明な点は、手持ち資料(お客さまに提出しない資料)として、質問リストにしておきます。
打ち合わせの中でこれを確認し、必要に応じて、提案書を修正していく方向としました。
解説とアドバイス
「提案できそうな業界を分解する」に出てきた手法は、マーケティングの分野でセグメンテーションと呼ばれる作業です。
とらえ方によって様々な軸を取りえますので、皆さんも頭の体操として考えてみてください。
重要なのは、自社製品が売れそうかどうか、という観点です。
「優先度の高いお客さま企業を見つけ出す」に出てきた作業が、マーケティングでいう、ターゲティングとなります。
ここでは一つの候補にしぼりましたが、この有望顧客群をリスト化し、それぞれへのアクション計画を作っていくことになります。
これらの情報を活用して、自社が優位に立てるような提案を仕上げていくことが、マーケティングでいう「ポジショニング」にあたります。
まとめ
ここでは、集まった情報をもとにして、どの市場、どの顧客へアプローチしていくか、を検討する営業のアクションをご紹介しました。
細かく記載していませんが、それぞれの分析ごとに、関係者に共有して相談することも重要です。
お客さま個別の情報については、この時点でまだわからないことも多いですが、「仮説」である提案書作成と、打ち合わせにおける質問リストが、この過程で出来上がることになります。
営業職は、お客さまとの間の最前線にいるので、できるだけ客観的な情報に基づいて、進むべき方向性を提案していく重要な役割を演じているといえますね。
次の記事では、顧客へアプローチする上で立ちはだかる競合に関する分析をご紹介します。
参考文献
セグメンテーションなど、マーケティングの分野の知識が活用できます。
良書がたくさん出版されていますが、読みやすい書籍をご紹介します。
業界ごとのランキングや、その業界が抱えている一般的な課題は、業界地図を参考にすることができます。様々な出版社から発行されていますが、一例をあげておきます。
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