見積もりの達人への近道!営業初心者のための実践法【法人営業のノウハウ(8)】

営業活動の進め方

見積もりの作成は、営業の基本中の基本でありながら、大きなプロジェクトの受注成否さえ決めてしまう、非常に重要なタスクです。
また、内容によっては、逆に大きな損害を生む可能性さえあります。

ここでは、法人営業としての見積もり作成プロセスの例をご紹介します。

イントロダクション

この物語はフィクションです。実在の人物・商品・価格・団体などとは関係ありません。

登場人物

スゴイロボット(株)
営業部 営業一課 栄丸太郎
ロボットのベンチャーであるスゴイロボット社の営業担当。経験豊富な営業マン。

スゴイロボット(株)
技術部 技術一課 隣野三郎
ロボットとソフトウェアを合わせた設計を担当。栄丸さんの同期。

ロボットを作る会社である「スゴイロボット株式会社」の営業担当 栄丸さんが
レストランチェーン「美食レストラン株式会社」を訪問して、配膳ロボットの提案を実施しました。

お客さまからのご要望もあって、下記の条件での見積もりを作成することになりました。
・1店舗で配膳ロボット5台を試験的に導入する
・初期導入に掛かる費用と、クラウドサービスや保守に関する年額費用を提示する

栄丸さんは、技術部の隣野さんと相談しながら見積もりを作っていきます。

方針の協議

スゴイロボットでは、
技術部門が算出の根拠となる情報を集め、
営業部門がお客さま向けの見積書を仕上げていく役割分担となっています。

スゴイロボットの会議室で、栄丸さんと隣野さんはホワイトボードに見積もりの項目を書き出しながら会話を始めました。

スゴイロボット<br>栄丸
スゴイロボット
栄丸

いまイメージしている見積作成の段取りはこうだ。

  • ①見積書に必要な項目をピックアップ
  • ②見積条件に必要な内容をピックアップ
  • ③必要な情報をまとめる
  • ④見積書の作成
スゴイロボット<br>隣野
スゴイロボット
隣野

そうだな。

それぞれの役割分担を確認していこう。

見積書に必要な項目をピックアップ

スゴイロボット<br>栄丸
スゴイロボット
栄丸

まずは①だな。
ホワイトボードに書きだしてみよう。

■見積もり項目
・初期導入費用
 ・ロボット本体(5式×定価)
 ・充電設備(5式×定価)
 ・作業費
  ・初期導入作業費(日数×作業単価)
  ・トレーニング費(日数×作業単価)
 ・諸経費
・年間費用
 ・クラウドサービス(5式×年額単価)
 ・ロボット及び充電設備保守費用(5式×年額単価)

スゴイロボット<br>栄丸
スゴイロボット
栄丸

作業費以外の項目は定価が決まっているから、営業側で一通り準備できそうだ。

作業に掛かる日数を割り出してもらえないか。

スゴイロボット<br>隣野
スゴイロボット
隣野

了解。
作業詳細が決まっていないと作れないものもあるけど、どうする?

スゴイロボット<br>栄丸
スゴイロボット
栄丸

お客さまもまだ導入したことがないから、わからないことも多いはずだ。

これまでの例から、うちのおススメとして想定作業で作ってしまおう。

どうしてもわからないことがあれば、こちらでお客さまに聞いてみるよ。

スゴイロボット<br>隣野
スゴイロボット
隣野

わかった。
作業工数を計算するから別日に回答させてくれ。

見積条件の方針

スゴイロボット<br>栄丸
スゴイロボット
栄丸

よし、次は②見積条件を確認しよう。

ここをきちんと書いておかないと、後になって、これも含めろ!みたいなことになってしまうんだよな…。

スゴイロボット<br>隣野
スゴイロボット
隣野

その通りだね。

機材については、最新のスペックや注意事項など資料を作ってあるから送るよ。

費用に含まれる作業内容についても、工数の計算結果と一緒に連絡する。
クラウドサービスについても、最新の機能一覧、保守サービスについては保守サービス内容の資料がある。

スゴイロボット<br>栄丸
スゴイロボット
栄丸

試算金額の回答と一緒に、1週間以内にもらいたいな。

その後、こちらで提示価格を考えて、見積書を作るから。

スゴイロボット<br>隣野
スゴイロボット
隣野

ちょっと厳しいけど、なんとかなると思う。

必要な情報をまとめる

営業部門で把握できる情報を集める

栄丸さんは、隣野さんからの回答を待つ間、次の情報を整理しました。

作業単価会社で決められた数字があります。この数字には、会社を経営する上で必要となる利益が含まれています。
隣野さんが出してくれる工数と掛け合わせることによって金額が算出されます。
定価表製品が企画された段階で決められた定価があります。ロボットや電源装置、クラウドサービスや保守サービスも単価が決められています。
競合の価格競合であるムジン技研が提示するかもしれない価格です。
市場価格お客さまである美食レストランが支払うであろう価格です。
導入メリットの価格これを導入することで、いくら相当分のメリットが発生するのかという試算です。

技術部門からの参考情報を受領

隣野さんが計算を終えてメールを送ってくれました。

件名:見積関連資料について

添付:
作業工数計算資料20231018.xls
見積条件案20231018.xls
配膳ロボット仕様詳細(機材スペック及びソフトウェア機能)20231018.xls

本文:
栄丸さん

先日打ち合わせした内容で資料を作ってみました。
・作業工数計算資料…作業に必要な日数を記載
・見積条件案…工数に含まれている作業内容や、機材等に関する注意事項
・配膳ロボット仕様詳細…参考資料です。

打ち合わせで説明したかったのですが時間がなかなかとれないため
いったんこの参考情報で作ってみてもらえますか。

不明点あれば連絡ください。

隣野

見積書を作る

栄丸さんは、自ら集めた情報と、隣野さんからの資料を参考にして見積書を作ってみました。

初期費用

まずは初期費用に関する内容です。

各見積もり項目について、定価があるものはその価格を単価に入れて計算しました。
定価がない作業費については、工数と、社で定められた工数単価の掛け算で計算します。

そのほか、納期や支払い条件など、必要な情報についても漏れなく記入していきます。
見積条件については枠内に収まり切らず、別紙を用意することにしました。

年間費用

次に、年間費用に関するものです。

こちらは、納めた後に毎年発生し続ける費用を想定しています。

毎年お支払いいただく金額であることを読み取れるように表記も調整します。

価格の妥当性を検討する

これまで集めた情報をまとめると、下記の通りとなりました。

・お客さまである美食レストランは、リピート率の向上やコスト削減効果から一定の投資をすると考えられる
・競合であるムジン技研の配膳ロボットは、今回のスゴイロボットの価格よりも安い可能性がある
・価格交渉となった場合でも、パッケージ化されている操作性で、スゴイロボットの製品の方が価値が上であることが説明できる
・今回の見積額であれば、十分な利益を確保できる
・今後、価格を下げることはあっても、上げることは不可能に近い

この結果、初めて提示する価格としては、現在の見積金額で問題ないという結論に達しました。

提出する

栄丸さんは、見積もり意図を技術部の隣野さんに連絡し、さらに上司の上野さんの了承も得て、電子印鑑を押しました。
これで見積書は完成です。

栄丸さんは、見積書と、これを補足するための見積条件書や関連するカタログなどの資料をもって、お客さまを訪問して説明を実施しました。

解説とアドバイス

方針の協議

見積書を作成する役割分担は、会社や案件の内容によっても大きく変わります。

多くの場合、複数の部門が関わることも多いため、このようにコミュニケーションを取りながら進めるのが一般的です。

営業としては、「お客さまから見て納得感があるか」という観点を常に忘れないことが重要です。

実は、見積書を作成する上で特に重要なのは、見積条件です。

お支払い頂く金額で提供できる範囲はここまでですよ!という点をきちんと書面として残しておかないと、後になってトラブルの原因になります。
「当然やってもらえると思っていた」「ここはやってもらわないと困る」など、後からお金がかかる要望が増えて、案件が大損になってしまうことがよくあります。

必要な情報をまとめる

社内で決められている定価や工数単価は非常に重要です。
なぜなら、この中に、会社を経営する上で必要になる経費や、あなたの給与も含まれているからです。

競合分析や顧客分析の中で得られた価格に関する情報は、提示した価格の妥当性を検討する上で極めて重要です。

見積書の作成

見積書には、書式上記載が欠かせない要素があります。

タイトルや見積もり項目は当然として、納期・見積有効期限・内税か外税か・入金条件・受渡場所などなどです。

これらを関係部署に確認しつつ、漏れなく埋めていく事が重要です。

受渡場所をうっかり「貴社指定場所」と記載したばかりに、意図せず全国に納入しに行く事態に陥った、などということにならないようにしましょう。

価格の妥当性検討

価格の算出方法は、大きく分けて下記に分かれます。

・コスト志向的価格設定法…コストに、得たい利益を加算する手法
・需要志向的価格設定法…コストよりも、お客さまがどの程度ほしいと考えるかを重視
・競争志向的価格設定法…競合他社との関係が価格設定に影響する

実際の現場では、それぞれで想定される価格を比べた上で、見積額を設定していくことが多いです。

最終的には、「需要志向的価格設定法」でお客さまが納得感のある内容になっているか、が重要になります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

見積書は、営業の業務の内、最も重要なもののうちの一つです。
見積書は、一度出してしまうと、内容を簡単には変えられません。
見積もり有効期限を超えたとしても、以前提出したものとの差分を事細かに聞かれたりもします。

一方で、提出した記述の内容に助けられることもあります。
見積条件などで、作業範囲を厳密に定義している場合などです。

見積もりと、これに対する注文書は、それだけで個別契約に準じる位置づけになります。
十分な情報と分析の元、作成していくことをおすすめします。

残念ながら、大きなプロジェクトほど、初回に提出した見積もりが一発OKとなる可能性が低いのが現状です。次の記事では、価格交渉の例をご紹介します。

参考書籍

この本はやや難しい分類に入るかもしれませんが、価格戦略の重要性や、取りうる戦略の種類など、中級者にとっては非常に有用な内容となっています。ご参考に。

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