顧客の言いなりはNG!先輩営業がやっている交渉術【法人営業のノウハウ(9)】

営業活動の進め方

大きなプロジェクトほど、最初に出した見積書で無事に受注に至るケースは少ないものです。
価格や仕様など、お客さまから様々な相談がもちかけられることも多くあります。

このご相談にすべて応えてしまうと、内容によっては予定されていた利益を失い、赤字の案件になってしまう可能性もあります。

ここでは、営業としての交渉プロセスの例をご紹介します。

イントロダクション

この物語はフィクションです。実在の人物・商品・価格・団体などとは関係ありません。

登場人物

スゴイロボット(株)
営業部 営業一課 栄丸太郎
ロボットのベンチャーであるスゴイロボット社の営業担当。経験豊富な営業マン。

スゴイロボット(株)
技術部 技術一課 上野課長
栄丸さんの上司。
栄丸さんを信頼して、仕事の進め方を任せている。

美食レストラン(株)
設備部 店舗設備課 美味花子
美食レストラン本社で全国の設備整備を担当している。

美食レストラン(株)
設備部 店舗設備課 旨井課長
全国の設備整備の責任者。美味の上司。

ロボットを作る会社である「スゴイロボット株式会社」の営業担当 栄丸さんが
レストランチェーン「美食レストラン株式会社」を訪問して、配膳ロボットの提案を実施しました。

社内での協議も経て、見積書を提出した状態となっています。

見積の説明に一度訪問していますが、数日後にお客さまから連絡がありました。

お客さまからのご相談の電話

美食レストラン<br>美味
美食レストラン
美味

ちょっとご相談があってお電話しました。

先日頂いたお見積りの件です。

スゴイロボット<br>栄丸
スゴイロボット
栄丸

配膳ロボットの件ですね。

どうかなさいましたか?

美食レストラン<br>美味
美食レストラン
美味

実はいま、他社様からも配膳ロボットのご提案を頂いているところです。
機能については御社の方が勝っていると感じていますが、

価格が他社様の方がお安く、幹部から「費用対効果」の再検討を求められています。
なんとか値引きをご検討頂けませんでしょうか…。

スゴイロボット<br>栄丸
スゴイロボット
栄丸

ムジン技研だな。

思っていた通りだ。

スゴイロボット<br>栄丸
スゴイロボット
栄丸

それは困りました…。

一度社内で協議してまた会話させて頂けますか。

社内で作戦会議

栄丸さんは、早速上司の上野さんと相談しました。

スゴイロボット<br>営業 上野課長
スゴイロボット
営業 上野課長

さて、どうするか。

これまでの情報収集・分析だとムジン技研だな。

実績作りたさに戦略価格で勝負してきているのかもしれない。

スゴイロボット<br>営業 栄丸
スゴイロボット
営業 栄丸

こうなることを見越して、

価格をある程度高めに設定してあったので、
お客さまの顔を立てて少し値引き調整をしようと思います。

同時に、機能差を説明して、改めて競合との違いを説明します。

スゴイロボット<br>営業 上野課長
スゴイロボット
営業 上野課長

現場の了承が得られた後で、
調達部門からも値引き要請が来る可能性があることも忘れないようにな。

スゴイロボット<br>営業 栄丸
スゴイロボット
営業 栄丸

はい。
現状は見積額の10%までは差し引いても、当初想定した利益は残せます。
現場と調達部門の値引き合計が、この10%以内に収めて頂くように交渉します。

スゴイロボット<br>営業 上野課長
スゴイロボット
営業 上野課長

それでいこう。
機能差については、デモで幹部にも見てもらえるようにしてはどうだ?

必要ならうちの幹部にも出てもらおう。

スゴイロボット<br>営業 栄丸
スゴイロボット
営業 栄丸

わかりました!

10%ではどうにもならない、という事態になってしまったら
技術部に相談して原価低減も相談することにします。

スゴイロボット<br>営業 上野課長
スゴイロボット
営業 上野課長

そうだな。

できるだけそうならないように交渉を頼む。

お客さまとの交渉

美食レストラン<br>美味
美食レストラン
美味

わざわざご足労頂いてありがとうございます。

また、ぶしつけなご相談をしてしまい申し訳ありません…。

スゴイロボット<br>栄丸
スゴイロボット
栄丸

いえ、営業にとっては日常茶飯事ですから。

なんとか幹部の方にご納得いただける形にしたいです。

美食レストラン<br>旨井課長
美食レストラン
旨井課長

私たちも困っていたところです。

ご検討の方はどうでしょうか。

スゴイロボット<br>栄丸
スゴイロボット
栄丸

幹部の方が気にされていた点が「費用対効果」とのことだったので、

まず、我々の製品の効果について少し説明させてください。

スゴイロボット<br>栄丸
スゴイロボット
栄丸

我々の製品が、他社と大きく違う点と思っているのは、実績から得られた操作のしやすさなんです。

ここに開発投資を集中しているため価格は高額になっているかもしれません。

また、トラブルがあったときの全国サポートまで備えています。

スゴイロボット<br>栄丸
スゴイロボット
栄丸

この、操作性やサポート体制がないと、アルバイトさん達が運用できず、投資したものが倉庫に眠る結果になりかねません。
これが投資対効果のワーストケースだと思いませんか?本当に起き得る話です。

美食レストラン<br>旨井課長
美食レストラン
旨井課長

そのとおりですね。

改めて幹部には伝えます。

スゴイロボット<br>栄丸
スゴイロボット
栄丸

…とはいえ、ある程度価格調整させた、という事実がないと旨井さんも美味さんも苦しいですよね。

率直に、全体の10%減まではお応えしようと思っています。
調達部門様との値引き合計としての金額です。

美食レストラン<br>旨井課長
美食レストラン
旨井課長

どうもありがとうございます!

調達部門と合わせて10%でまずは社内説明してみます。

スゴイロボット<br>栄丸
スゴイロボット
栄丸

ぜひ、弊社製品のメリットと値引きをセットでお伝えください。

スゴイロボット<br>栄丸
スゴイロボット
栄丸

ひとつアイデアなのですが、

いま予定しているデモンストレーションに、

幹部の方もお越し頂いてはいかがでしょうか。

操作の容易性を体感して頂けるとご納得頂けるかもしれないなと。

美食レストラン<br>美味
美食レストラン
美味

良いアイデアですね!

社内で相談してみますね。

解説とアドバイス

お客さまからの値引き要求や仕様の追加など、営業にとって交渉は日常茶飯事です。

最も避けなければならないのは、準備も検討もせず、唯々諾々と値引きを受け入れることです。
お客さまの中には、あいさつ代わりにダメ元で値引き要求をしてくる人もいます。
あまりにも簡単に受け入れてしまうと、あなた自身も「言えばすぐに値引いてくれる人」となってしまう可能性があります。

日本経済新聞出版社から発行されている「交渉学入門」には、交渉を成功に導く3原則として以下を挙げています。

  • 理屈にこだわれ
  • 準備する
  • クリエイティブ・オプション(創造的選択肢)で合意する

営業の実戦においても、これは当てはまると思います。

今回のケースでは、下記の通りとなっています。

理屈にこだわれ「投資対効果」が課題なのであれば、スゴイロボットの製品を選択するべき理由をご理解頂きました。
準備する情報収集・顧客分析・競合分析の過程で、顧客の決裁者が誰であるのか、競合はどの会社でいくらくらいを提示するのか、強み・弱みは何か、を分析した上で見積もりを提示しており、交渉に使える幅を既に準備してありました。
想像的選択肢で合意する経営層に投資対効果を納得して頂く対応を進めて、尚且つ10%までの値引きを受け入れることで、お客さまの現場側とは合意しました。

もう一つ、私が追加しておきたい要件は、「顧客の担当者を味方につける」です。

交渉する相手で、最も重要なのは最終決裁者です。
でも、実際には直接お会いできないケースも多々あります。

今回のケースでも、旨井さん・美味さんが、経営幹部からの要求に困っていることは明らかです。
そのお客さまの主担当と「一緒に」解決策を探していくというスタンスを取る事で、
営業担当として信頼されるようになるはずです。

営業は、ひとつのプロジェクトだけでお客さまとの関係が終わる、という存在ではありません。
長くお付き合いできるような心配りも求められている存在だと思います。

参考書籍

交渉学に関する本は一冊読んでみても良いと思います。
少し古い本ですが、私はこの本を参考にして、営業活動に活かしてきました。今回のケースよりも意地悪な顧客への対応も書かれています。一例としてご参考に。

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